離婚時におけるペアローンマンションの財産分与
― 債務引受・共有物分割・競売・任意売却の法的整理 ― ……
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近年、離婚に関する相談件数は増加傾向にあり、特に住宅ローンが残る不動産の取扱いが大きな争点となるケースが顕著に増えています。
本来、離婚時の財産分与において不動産が存在する場合、一般的には「当該不動産を売却し、その売却代金を分配する」という方法が採られます。
しかしながら、近時の不動産市場および金融環境の影響により、この基本的な解決手法が現実的に採用できない事案が増加しているのが実情です。
不動産を売却しても住宅ローンを完済できない、いわゆるオーバーローン状態にある場合、売却時に不足する金額を自己資金で補填する必要があります。しかし、当該資金を準備できないために「売却したくてもできない」状況に陥るケースが多く見受けられます。
このような状況の背景には、主に以下の要因が存在します。
これらが複合的に絡み合うことで、問題の解決が一層困難となります。
一般に、新築不動産は購入時点において「新築プレミアム」が付加されており、取得後一定期間を経過するとその価値は市場価格へと収斂します。したがって、購入直後から数年間は価格が下落しやすい傾向にあります。
さらに、住宅ローンの多くは元利均等返済方式が採用されており、返済初期においては利息の占める割合が高く、元本の減少が緩やかです。このため、一定期間においては「不動産価値の下落幅」が「ローン残債の減少幅」を上回りやすく、結果として売却損が生じる構造となっています。
なお、都市部の一部エリアでは市場価格の上昇により購入時を上回る価格で売却できる事例も見られますが、これは地域的・個別的事情によるものであり、すべての物件に当てはまるものではありません。
売却が困難な場合、実務上多く見られるのが
【どちらか一方が当該不動産に住み続けたい】という要望です。
特に、住宅ローン契約上の主たる債務者である夫が退去し、配偶者(多くの場合、専業主婦または収入の少ない側)が子とともに居住を継続するケースが典型です。
しかしながら、この場合においては金融機関の対応が大きな制約となります。
住宅ローン契約は金融機関と債務者との間の契約であり、債務者の変更(免責的債務引受)は金融機関の承諾を要します。
(民法第466条の5参照)
したがって、離婚当事者間で「妻が引き続き返済する」と合意したとしても、金融機関が承諾しない限り、契約上の債務者は変更されません。
実務上、以下の理由から金融機関が承諾しないケースが多数です。
特にペアローンの場合、双方が独立した債務者であるため、一方のみを切り離すことは容易ではありません。

離婚後も名義人が住宅ローンを支払い続けるケースは一定数存在しますが、これは将来的に重大な法的・感情的トラブルを生じる可能性があります。
例えば、
さらに重要な点として、『不動産の所有権は登記名義人に帰属する(民法第206条)』ため、居住しているだけでは権利は保護されません。
また、当該不動産に居住する元配偶者には、不動産を所有する元配偶者の相続人に対する相続権はありません。したがって、名義人に相続が発生した場合、居住の継続が困難となるリスクも現実的に存在します。
離婚に伴う財産分与は、民法第768条に基づき行われ、婚姻期間中に形成された財産は原則として夫婦の共有財産と評価されます。
不動産については、
として評価されるのが実務の基本的な考え方です。
したがって、単に「夫名義である」という理由のみで全体が分与対象外となるわけではなく、形成過程に応じた評価が求められます。
以上のとおり、離婚に伴う不動産および住宅ローンの問題は、
法律・金融・不動産評価が複雑に絡み合う分野であり、当事者間のみで適切に解決することは容易ではありません。
対応策としては、
などを、専門家の関与のもとで整理することが重要です。
離婚と不動産問題は密接に関連しており、特に住宅ローンが残る場合には解決が長期化・複雑化する傾向にあります。
そして実務上の重要な原則は次のとおりです。
👉 「離婚および相続に関する問題は、先延ばしにするほど紛争が拡大する」
当事者の希望どおりの解決が困難な場合も少なくありませんが、複数の選択肢を比較検討し、法的に実現可能な範囲で合意形成を図ることが重要です。
そのためにも、不動産・金融・法律の各分野に精通した専門家と連携し、早期に対応方針を定めることが、紛争の拡大防止につながるといえるでしょう。
本記事は一般的な法制度および実務上の考え方の解説を目的としたものであり、
個別具体的な事案に対する法的助言を行うものではありません。
具体的なご相談は弁護士にご相談ください。
また、本記事の内容は筆者個人の見解であり、金融機関の見解を示すものではありません。
住宅ローンに関する具体的な取扱いは各金融機関により異なるため、詳細については各金融機関にご確認ください。